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June 30, 2023

宇宙エンジニアの仕事と、Space BDにおけるエンジニアの存在意義

宇宙エンジニア

(エンジニア)
Space Engineer Engineer

日本でも世界でも近年益々盛り上がりを見せている宇宙業界。その中で宇宙ビジネスの事業開発を行うSpace BDにおいて、エンジニアは非常に重要な役割を担っており採用も強化している。宇宙エンジニアはどんな仕事をしているのか、どんな魅力があるのかなどについて、Space BDのエンジニアの2人に話を聞いた。

【登場社員】
小笠原 宏:社外取締役
三菱重工株式会社で四半世紀にわたり各種ロケットの設計・開発・運用、日本版スペースシャトルHOPEX、宇宙ステーションきぼうの設計・開発を担当後、H2Aロケット打上サービスの海外展開に尽力。2021年より東京理科大学で次世代宇宙エンジニア育成と宇宙輸送系研究に務める。

本多 哲也:事業ユニット統括 システムインテグレーション事業 シニアエンジニア
株式会社IHIにて約25年にわたり国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」船外実験プラットフォームの開発に従事。その後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて、中型実験装置アダプタ(i-SEEP)を初めとする船外の実験装置開発の取り纏めを業務に従事。

高尾 和幸:エンジニア
名古屋大学大学院を修了後、2017年に株式会社IHI入社し、航空機エンジン部品における生産技術業務や新規製品開発を経験。その後、インターステラテクノロジズ株式会社にて観測ロケット及び軌道投入用ロケットのエンジン設計開発に従事。


なぜ、宇宙産業・Space BD?

宇宙の「事業開発」に魅力を感じて。
誰もがもっと宇宙を身近に感じられる社会へ!

■小笠原:私は現在Space BDでは取締役という立場ではありますが、私自身も長く宇宙業界でエンジニアをしてきまして、メーカーでロケットの設計・開発・運用をしたり、ISS(国際宇宙ステーション)の日本実験棟「きぼう」の設計・開発など様々な現場を経験してきました。
宇宙業界は近年益々盛り上がりを見せていますが、宇宙の一大産業化を目指すSpace BDでエンジニアをしている高尾さんと本多さんは、数ある宇宙関連の企業の中でなぜSpace BDを選んだんですか?

■高尾:僕の前職は宇宙ベンチャーで、ロケットのエンジンを設計していました。自分が設計したロケットが打ち上ったときはエンジニア冥利に尽きるというか、感動して泣いてしまったくらい充実してはいたんですが、世間一般ではまだまだ宇宙って遠い存在なんだなと感じることがとても多くて…。
もっとみんなが、自動車と同じくらい宇宙を身近に感じられるような社会にしたいなという思いがあり、そのための挑戦ができるSpace BDへの転職を決めました。ここで様々なプロジェクトを形にしていって、より多くの人へ宇宙の裾野を広げていきたいなと思っています。

■小笠原:「誰でも宇宙」みたいな世の中にしていきたいということですね。本多さんはいかがですか?

■本多:私も小笠原さんと同様にメーカー出身で、株式会社IHIで宇宙開発の業務を主に行っていて、ISSのプロジェクトに初期段階から約25年ほど携わっていました。その後JAXA5年ほど、ISSの日本実験棟「きぼう」の利用に関する取り纏め業務を担当していたときに、ちょうどSpace BDが民間の船外利用事業者として選定されて、そこで初めて名前を知りました。
仕事を通じてSpace BDとはつながりもできてきて、少しずつ気になる存在になっていたんですよね。JAXAを退職する際に、次のステップとしてメーカーとは違った切り口で宇宙を見てみるのも面白いだろうなという気持ちもあり、宇宙の事業開発をしているところに興味があったのでSpace BDに入社したというわけです。


宇宙エンジニアの仕事とは

実は、一般的なメーカーのエンジニアとの共通点も多い。
それにプラスして、“宇宙の特殊性”に応えていく。

■小笠原:「宇宙業界のエンジニア」の仕事をわかりやすく説明するとどういったものになるでしょうか?他の業界との比較でもいいですし、Space BDの中での仕事でもいいですし、何か特徴はありますか?

■高尾:例えばロケットを作るようなメーカー的な観点で他の業界と比較すると、自動車業界などともそんなに大きく変わらないと思います。モノをつくる設計者とか研究開発者、生産技術の人、品質保証の人とか、宇宙業界のエンジニアであっても基本的に必要な素養は一般的なメーカーのエンジニアと共通するところは多いかなと。
一方で、宇宙業界ならではの仕事というところにフォーカスすると、その1つは「打上げ」に関することです。宇宙空間にモノを持って行くには、そのモノを搭載する衛星と、それを打上げるロケットが必要です。
衛星をロケットに載せるための調整(ユーザーインテグレーション)というのがかなり技術的な知識を要するものなのでエンジニアが担当するのですが、これは特にSpace BDが強みとしている部分でもあります。

■小笠原:共通点もたくさんありながら、少しだけ宇宙ならではの特殊性があるという感じですよね。地球から宇宙にモノを運んで、さらに宇宙の極限環境で働く機械を作ろうとすると、科学工学的な知識がいる。
そして、インテグレーションの業務となると、ロケットのことも衛星のこともある程度わかっていないと調整はできないので、より広い知識が必要。
だから様々な事業を展開するSpace BDにおいては、視野を広く持って、知識も幅広く身につけて、それを業務に活かすということが大事だということですね。


現在の仕事内容

「人の願い」と「宇宙」をつなぐ調整役!
幅広い工学知識で、プロジェクトを実現に導く。

■小笠原:では実際に、今お二人がSpace BDで担当されているエンジニアの仕事について伺いたいと思います。高尾さんは、衛星打上げサービス事業でのユーザーインテグレーション業務をご担当ですよね。
そもそも衛星打上げサービスとは何かというところから、具体的な仕事内容を教えてください。

■高尾:衛星打上げサービスとは、「衛星」という荷物を宇宙空間に届けてあげるサービスで、その輸送手段が「ロケット」です。ロケットは現在、国内海外含めて数十機あり、その中から、打上げる軌道や、費用、打上げ成功率などを加味しながら、お客様の希望に最適なロケットを選定します。
そして、そのロケットに衛星を搭載するには技術的に大変なところがたくさんあるので、その部分をお客様に対してサポートするという仕事をしています。

■小笠原:ロケットと衛星を物理的に取り付けるところでの技術的なサポートということですか?

■高尾:物理的な作業のサポートではなく、専門的な部分での確認や調整業務と言えますね。例えば、ロケットに衛星を載せる際には、その衛星が危険なものではないかというのをロケット側はすごく気にするので、「ロケットに搭載して宇宙へ打上げても安全なものですよ」「こういう検査で安全性が確認されていますよ」ということを示すためにたくさんの書類を提出しなければならないんです。
そのあたりを私たちでサポートしています。そうした書類は英語であることが多いので英語力も必要ですが、文章から問題がないことを確認できるくらいの幅広い工学の知識が求められます。

■小笠原:宇宙は要件文書が非常に多いので、ドキュメントの読み込みは大変ですよね。本多さんは今、総務省が推進する「TSUKIMI」というプロジェクトに携わっておられますが、それはどんなプロジェクトなんですか?

■本多:「TSUKIMI」は端的に言うと、月に小型衛星を打上げて、月の表面ならびに表層をセンシングして、月の水資源のマップをつくるというプロジェクトになります。Space BDだけでなく、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)という機関を中心に、東京大学、大阪公立大学、JAXAを含めた産官学連携での5ヵ年プロジェクトです。
今年度はその3年目でモノづくりが本格化するというところで、Space BDがプロマネとして月に打上げる衛星の要求書を固めている状況です。

■小笠原:具体的にはどのような仕事をしているんですか?

■本多:Space BDのエンジニアをほぼ総動員して、システムインテグレーションの部分で参画しています。衛星は、衛星の基本的な動作を支える「バス部」と、衛星のミッションを遂行するために必要な「ミッション部」の2つから構成されているんですが、この両者を取り纏めて調整するという仕事ですね。
今回の場合、ミッション側は研究所や大学の先生方がセンサーを開発し、バス側の衛星メーカーがそのセンサーを搭載する小型衛星を作ります。当然そこには、ミッション側からの要求もあれば、バス側にも制約事項があるので、そういうぶつかる部分を両者と細かいやりとりをしながら調整していって、「1つの衛星としてこういう形にしましょう」というのをまさに今取り組んでいるところです。
サイエンス側の要求を、どこまでハードウエアとして達成しようかというのは本当に大変な調整ではありますが、インテグレーション業務の醍醐味でもあります。


Space BDでのエンジニアの価値

事業開発のスタートからゴールまで当事者として関わる。
エンジニアがいることで事業は仕上がっていく!

■小笠原:Space BDは「宇宙商社」と名乗って、宇宙を一大産業化していくための事業開発に力を入れている会社です。そこで社員の3分の1がエンジニアであることは、Space BDにとってどんな価値があると思いますか?

■本多:Space BDの事業開発において、「エンジニア」とフロントラインに立っている営業を兼ねた「事業開発」のメンバーは何が違うかと言うと…。事業開発はお客様から案件を頂く役割ですが、案件をSpace BDとして形にするためには、最初の段階でエンジニアが入ってどうすれば実現可能なのかなどの検討が必要になってきます。
そうしたところからエンジニアと事業開発のメンバーが連携してプランに調整を加えながら具体的に固めていき、正式に事業としてやることが決まれば、当然エンジニアもそこにプロジェクトメンバーとして参加していきます。
高尾さんのようなユーザーインテグレーション業務もそうですし、私みたいなシステムインテグレーション業務もありますし、実際にエンジニアが入ることで事業として仕上がっていく。それがSpace BDの事業開発を形にするベースになっているんです。

■高尾:僕も全く同感です。最近、事業開発のメンバーと一緒に名古屋のお客様のところへ伺ったんですけど。そういう営業の場で、自分はエンジニアとしてどういう価値を発揮できるんだろうかって考えていたんですよね。
特に衛星関連のお客様の場合、営業時にも技術者の方と対面になることが多いので、自分がエンジニアとしてしっかりとした知識を持った状態で同席していると、その場で直接詳しいお話ができます。これもSpace BDが事業をつくる上での強みかなと思います。
自分自身にも経験はありますが、メーカーでエンジニアをしていると実際にどういう顧客ニーズがあるのかといったところには直接関われないので、もどかしい気持ちを感じている人も多いと思うんですよね。その点、Space BDはビジネス的に今どう動いているのかっていうところも把握して、エンジニアの力を発揮できる環境かなと思います。


求められる素養

4力学を基本に、幅広い知識を身につけつづけ、
主体性とコミュニケーション力を持って共創できること。

■小笠原:実際の現場感でいくと、これからSpace BDに入ってくる方には、どんな素養があるか、何ができるか、何にこだわりがあるかなど、どんなことが求められるんでしょうか?

■高尾:宇宙業界でエンジニアをするには、4力学的なところは素養としてある程度持っておいたほうがいいかなと思います。
仕事の中で書類を確認していても、あらゆるところで力学的な内容はよく出てきます。その度に毎回調べていると業務的にも追いつかないですし。でも、自動車とかメーカーでエンジニアをされている方はすでに培われている方も多いと思うので、その点に関しては宇宙だからというわけではないと思います。
あと、Space BDのような宇宙ベンチャーという観点でいくと、自分で何かを主体的にやっていくという姿勢はすごく大事ですね。

■本多:Space BDのエンジニアにもいろいろなバックグラウンドを持ったメンバーがいますけど、材料とか、電気とか、熱とか以外にも、事業開発をしていく上では求められる分野はさらに増えていくと思います。
Space BDの新しい事業としてライフサイエンス関連の事業も行っているように、サイエンスや化学も必要となってきましたし、将来的には環境の分野なども必要になるかもしれません。
我々Space BDは、宇宙での事業開発に力を入れることで宇宙を産業として育てていこうとしていますので、エンジニアも様々な人たちと話をして一緒にプロジェクトをつくっていきます。だから、どうしても幅広い知識が必要になります。専門性は当然必要ですが、自分の専門分野以外のことも広く浅く考えられる、そういう働き方を前向きにとらえて自分の知識の幅を広げていけることも重要だと思いますね。

■小笠原:今伺っていて思ったんですが、Space BDではエンジニアの中にもいろいろなバックグラウンドの方がいるし、エンジニア同士だけでなく、社内外で様々な人たちと話をすることも日常的にあるということですよね。
そうすると、人と話してアイデアを盛り上げるとか、対話を重ねて共につくりあげるとか、エンジニアの業務においてもそこがすごく重要になると思うんですけど、コミュニケーション力みたいなのはやはり大事だと思いますか?

■高尾:大事だと思います。エンジニアのメンバーもリモートで仕事をすることが多いんですが、特にそういう場面で実感しますね。直接のコミュニケーションよりも、むしろオンラインのコミュニケーションの方が難しいので、そこも含めてコミュニケーション力は結構求められていると思います。


私の目標・チャレンジ

エンジニアとしての付加価値を磨き、
Space BDの宇宙ビジネスに新たな道を拓いていきたい。

■小笠原: お二人はそれぞれのエンジニアとしての観点で、この先こんな仕事がしたい、その仕事を通じてこんなことを達成したいといったビジョンはありますか?
これまでのバックグラウンドも踏まえながら、今お考えになっている自分の将来像みたいなものを教えてください。

■高尾:まずは、ロケットと衛星の調整業務をマスターしたいと考えています。今は、米・スペースX社の「ファルコン9」というロケットをメインでやっているんですが、他のロケットも含めて、より幅広く対応できるように経験を積んでいきたいです。
それにプラスしてエンジニアとしての付加価値をつけるために、今本多さんと一緒に携わっている「TSUKIMI」のような衛星プロジェクトのシステムエンジニアとしての業務も、もっと極めていきたいなと思っています。
僕の中でのロールモデルは本多さんですね。システムインテグレーションもできるようになって、その先に目指すのは、「こういう衛星を作りたいです」というお客様が来たときに、最初の段階から最後の打上げまで全体的にサポートできるようなエンジニア。それができれば、最終的には自社で人工衛星が作れちゃうんじゃないか!Space BDは今はまだそのカードを持っていないので、僕がエンジニアとして付加価値をつけていくことによって、また新たな道を拓ければいいなと思っています。

■小笠原:そこまで行けると、今度はSpace BDの中で自分で要件定義をして衛星を作って、打上げる。さらにそれをオペレーションして、自社で取った衛星データを使ってビジネスをする。なんてことまで広がりますね!
10
20年の間ではやりたいですよね。ぜひ成し遂げてください!本多さんはいかがですか?

■本多:今は時代の転換期というか、宇宙業界にわりと面白いことが起こりそうなんですよ。宇宙系のスタートアップもどんどん出てきて、民間のロケットや衛星だけでなく、民間主体の新しいプロジェクトもたくさんあって、たぶんそういう感じでもっともっと宇宙業界は広がっていく。国の枠という境界がない分、民間ならではでいろいろな面白いことができるんじゃないかと見ています。
マクロ的なビジョンではありますが、Space BDがグローバルな規模で大きな事業ができるように私も貢献できればいいかなと思っています。

■小笠原:かつて本多さんが携わってきたISSは国際的なプログラムだったので、そのあたりの本多さんのノウハウや経験を、ぜひSpace BDの若い人たちに伝えて、グローバルにやっていきたいということですね。


これから宇宙はココが面白い!

2030年は宇宙業界の大転換期!
スケールもビジネスも、想像できないほど広がっていく。

■小笠原:世界中で続々と新しい宇宙ベンチャーが生まれたり、様々な業界から多くの民間企業が宇宙業界に参入するようになったり、宇宙ビジネスはどんどん広がっていますよね。それに、現在のISS2030年に退役することが決まっているので、その後のことについていろいろな会社が手を挙げていて、新たに民間の宇宙ステーションを開発して運用していくといった話にもなってきています。
本多さんと高尾さんはエンジニア目線で見て、宇宙ビジネスってこんな面白いことになりそうだとか、どんな世界を想定されていますか?

■高尾:まず宇宙ビジネスという観点でいくと、「地球に向けたビジネス」が非常に多くなるかなと思います。その中で最近よく話題になっているのは、スペースX社の「スターリンク」。地球低軌道で衛星をたくさん打上げて、宇宙空間から通信することで、地震などの災害時に地上の基地局がダメージを受けて電波がつながらなくなったときなどに、衛星をサブの基地局として使えたり。
さらに、現在地上にそうした設備がないところに対して、宇宙空間の衛星を使った通信サービスや、衛星画像を使ったビジネスなどを展開していく、そういった事業がこれから伸びていくかなと思っています。
そして今後の宇宙開発は、月や火星、深宇宙へとどんどんスケールが広がっていきます。そういうところが個人的にはすごく楽しみで、ワクワクしています。だけど、それが20年後30年後にどうなっていくかっていうのは、誰も想像できない。

■小笠原:宇宙エンジニアとしての仕事も増えていくし、どんな新しい宇宙ビジネスに入り込んでいけるかっていうのも楽しみだし、そうしたビジネスによって宇宙を利用する人が世界中で急増していくって本当にワクワクしますよね。

■本多:2030年以降は民間が主体になってくるので、今の地球低軌道の話みたいに宇宙を利用するハードルがまた一段下がるのは間違いないですね。より多くの人に宇宙を使ってもらうために、ロケットや輸送機をわりと安い値段で打上げて、あまり厳しくない要求の下で宇宙実験ができるような環境が整いつつあるようにも思います。
あとは、NASAも含めて、月と火星の探査のプロジェクトがそれぞれ進んでいますので、宇宙に関わる人にとっては非常に面白いというか、期待が高いのかなと。火星に人を送るにしても未知の部分はいっぱいあるので、そういう面でのチャレンジってすごく楽しい要素がありますよね。

■小笠原:そういう未知の世界が、今からたくさん展開されていくっていうのが、今後の宇宙ビジネスに関わっていく上での非常に大きな魅力だと私も思います。

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